東京都創業助成事業は、都内で創業予定または創業から5年未満の中小企業者等を対象に、事業立ち上げにかかる経費の一部を助成する制度です。助成限度額は400万円(下限100万円)、助成率は対象経費の3分の2以内で、賃借料・広告費・器具備品購入費・人件費などが対象になります。
最近、この助成金に関して「AI導入の費用は対象になるのか」という相談が増えています。結論から言うと、AIそのものを名指しした専用枠はありません。ただし、AIツールやAIを組み込んだシステムの導入費用が、既存の経費区分に当てはまる形で計上されるケースは実際にあります。
本記事では、東京都創業助成事業の基本と、採択企業がAIを事業立ち上げに活かした3つのパターンを解説します。申請書の書き方で気をつけるポイントもあわせて紹介するので、これから申請を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
この記事の結論
東京都創業助成事業に「AI枠」はないが、AI導入費は器具備品購入費・産業財産権出願費・広告費などの既存区分に当てはめて計上できる場合がある 採択されやすいのは「AIを導入すること」が目的ではなく、AIが事業計画の実現手段として位置づけられている申請である 採択企業のAI活用は、①少人数で回す体制づくり、②サービスそのものにAIを組み込む、③立ち上げ期の情報収集・営業の3パターンに整理できる東京都創業助成事業とは|制度の基本

東京都創業助成事業は、公益財団法人東京都中小企業振興公社が実施する助成制度で、助成限度額400万円・下限額100万円、助成率は助成対象と認められる経費の3分の2以内です。都内で創業を予定している個人、または創業から5年未満の中小企業者等が対象となります。年に複数回の募集があり、書類審査と面接審査を経て採択が決まります。
中小企業向けの助成金・補助金は数多くありますが、この制度が創業期の経営者に注目される理由は、対象経費の幅が広いことにあります。設備投資だけでなく、事務所の賃借料や従業員の人件費まで含まれるため、事業を立ち上げる際の現実的な出費をカバーしやすい設計になっています。
一方で、申請には「一定の要件」を満たす必要があります。公社が実施する創業支援サービスの利用歴や、都内の創業支援機関による支援を受けた実績など、いくつかの申請要件のうちいずれかに該当していることが前提です。思い立ってすぐ申請できる制度ではないため、創業を考えた段階から準備を始めることが重要になります。
助成対象となる経費の区分
対象経費は大きく分けて、賃借料・広告費・器具備品購入費・産業財産権出願・導入費・専門家指導費・従業員人件費といった区分に整理されています。AI導入を検討する場合、この区分のどこに当てはめられるかが最初の検討ポイントになります。
| 経費区分 | 主な内容 | AI導入との関係 |
|---|---|---|
| 賃借料 | 事務所・店舗の賃料 | 直接の関係は薄い |
| 広告費 | ホームページ制作、パンフレット等 | AIを使った制作物・サイトが該当する可能性 |
| 器具備品購入費 | 事業に使う機器・ソフトウェア等 | AIツール・システムの導入費が該当する可能性 |
| 産業財産権出願・導入費 | 特許・商標の出願、ライセンス取得 | AI関連技術の権利取得が該当する可能性 |
| 専門家指導費 | 外部専門家への相談・指導料 | AI導入の設計・助言が該当する可能性 |
| 従業員人件費 | 事業に従事する従業員の給与 | AI関連業務の担当者が該当する可能性 |
ただし、この表はあくまで「検討の出発点」です。実際にどの経費が認められるかは、募集要項の記載と公社の判断によります。年度によって要件や区分の細かい条件が変わることもあるため、必ず最新の募集要項を確認し、不明点は公社の相談窓口に問い合わせてください。

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AI導入費用は助成対象になるのか

東京都創業助成事業に、AIを名指しした専用枠は設けられていません。AI導入費が対象になるかどうかは、その支出が既存の経費区分の定義に当てはまるか、そして事業計画上の必要性を説明できるかで決まります。「AIだから対象になる」という発想ではなく、「この経費は器具備品購入費として認められるか」という発想で組み立てるのが実務上の考え方です。
ここでつまずく経営者が多いのは、AI関連の支出には「モノとして残らないもの」が含まれるからです。月額契約のクラウドサービス(ネット上で使えるソフト)や、使った分だけ課金される従量制の利用料は、購入した機器と違って資産として残りません。こうした継続的な利用料が助成対象になるかは、年度ごとの募集要項の規定を確認する必要があります。
対象になりやすい支出・なりにくい支出
過去の助成制度全般の運用を踏まえると、一般的に次のような傾向があります。あくまで傾向であり、個別の可否は公社の判断であることを前提にお読みください。
| 支出の種類 | 傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| 買い切り型のソフトウェア | 対象になりやすい | 器具備品購入費として整理しやすい |
| 自社向けに開発したシステム | 対象になりやすい | 事業に紐づく明確な投資として説明できる |
| 月額のクラウドサービス利用料 | 要確認 | 継続費用の扱いは要項の規定による |
| 従量課金のAI利用料 | 要確認 | 金額が変動し、事前見積が難しい |
| 汎用的な事務用ソフト | 対象になりにくい | 事業との直接的な関連が説明しづらい |
| 社長個人の学習・書籍代 | 対象になりにくい | 事業経費としての性質が弱い |
判断の分かれ目は「この支出がなければ、計画した事業が実現できないか」です。事業計画の中でAIが果たす役割を具体的に書けていれば、必要性は説明しやすくなります。逆に「業務効率化のためAIを導入します」という一文だけでは、審査する側は必要性を判断できません。
AI導入を申請書に書くときの3つのポイント
申請書でAI導入に触れる場合、次の3点を意識すると説得力が上がります。
ポイント1: AIを目的ではなく手段として書く。 「AIを導入します」ではなく「◯◯の課題を解決するため、△△の仕組みを導入します」という順序で書きます。審査で見られているのは事業の将来性であって、使っている技術の新しさではありません。
ポイント2: 効果を数字で示す。 「効率化できます」ではなく「1件あたり40分かかっている見積作成を10分に短縮し、月30時間を営業活動に振り向けます」と書きます。数字が入ると、計画の解像度が一段上がります。
ポイント3: 横文字を減らす。 申請書を読むのは技術者とは限りません。「API連携」「SaaS」といった用語をそのまま並べるより、「見積システムと会計ソフトを自動でつなぐ仕組み」と書いたほうが伝わります。伝わらない計画書は、良い内容でも評価されません。
採択企業のAI活用3パターン
創業期にAIを活用する企業の使い方は、大きく3つのパターンに整理できます。①社内の業務を少人数で回すための活用、②提供するサービス自体にAIを組み込む活用、③立ち上げ期の情報収集・営業の活用です。どのパターンを選ぶかによって、必要な投資額も申請書での書き方も変わります。
| パターン | 目的 | 費用感の目安 | 申請での位置づけ |
|---|---|---|---|
| ①社内業務型 | 少人数で事業を回す | 月3万〜15万円 | 人件費抑制の根拠として |
| ②サービス組込型 | 商品・サービスの価値そのもの | 100万〜500万円 | 事業の中核設備として |
| ③立ち上げ支援型 | 情報収集・営業・発信 | 月1万〜5万円 | 広告費・販路開拓の一部として |
費用感は事業規模や依頼範囲で大きく変わるため、あくまで目安としてご覧ください。実際には、①だけで始めて後から②に広げるという進め方をとる企業もあります。
パターン1: 社内業務型|少人数で事業を回す

最も多いのがこのパターンです。創業期は人を採れないため、社長と数名で事務作業から営業までこなす必要があります。ここにAIを入れて、事務作業の時間を削るという考え方です。
具体的には、見積書や請求書の作成、問い合わせメールの一次返信の下書き、議事録の要約、日報の集計といった定型作業が対象になります。UWANが伴走した従業員8名の事業者では、見積作成と請求処理の下書きを自動化し、月間20時間程度を削減できました。削減した時間は、社長が新規開拓に回しています。
このパターンの良いところは、投資額が小さく、効果が出るまでが早いことです。月3万円程度から始められ、1〜2ヶ月で効果が見え始めます。一方で、申請書に書く際は「なぜこの経費が事業立ち上げに必要なのか」の説明が求められます。「人を採らずに回すための投資である」という文脈で書くと筋が通ります。

パターン2: サービス組込型|商品の価値そのものにする

提供するサービス自体にAIの仕組みを組み込むパターンです。不動産業なら物件提案の自動化、教育事業なら学習内容の個別最適化、飲食業なら在庫と発注の予測など、業種ごとに形は変わります。
このパターンは、AIが「事業の中核設備」になるため、器具備品購入費や外注費として計上する筋道を立てやすい面があります。ただし投資額は大きく、自社向けに開発する場合は100万円を超えることも珍しくありません。助成率が3分の2であることを踏まえると、300万円の開発なら100万円は自己負担になる計算です。
注意したいのは、開発を発注する前に「本当にその仕組みが必要か」を検証することです。創業期は仮説の段階が多く、作ったものが使われないリスクがあります。まずは既製のツールを組み合わせて小さく試し、手応えを掴んでから本格開発に進むのが現実的です。助成金の交付決定前に発注した経費は原則として対象外になるため、スケジュールの組み立ても事前に確認してください。
パターン3: 立ち上げ支援型|情報収集と発信を回す
創業期は、市場調査・競合分析・営業資料の作成・情報発信といった作業が一気に押し寄せます。これらをAIで下支えするパターンです。
たとえば、業界動向の情報収集と要約、提案資料のたたき台作成、自社サイトやSNSの原稿づくりなどが該当します。月1万円程度から始められ、社長一人でも発信量を保てるようになります。ホームページ制作費として広告費に計上できる部分があれば、助成対象として整理できる可能性もあります。
ただし、このパターンには注意点があります。AIが出した情報をそのまま使うと、事実と異なる内容が混ざることがあります。とくに数字・法令・他社の実績に関わる記述は、必ず一次情報を確認してから使ってください。申請書の記載内容に誤りがあれば、信頼性そのものが問われます。
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3パターンの選び方・判断軸

どのパターンから始めるかは、事業の性質と手元資金で決まります。判断軸は「AIが売上に直接つながるか」の一点です。つながるならパターン2、つながらないならパターン1から入るのが基本的な考え方になります。
人手が足りず、社長が事務作業に追われている場合はパターン1。 効果が読みやすく、失敗しても損失が小さいためです。まずは1〜2業務に絞って導入し、効果を数字で確認してから広げます。創業直後で資金に余裕がない場合も、ここから始めるのが安全です。
提供するサービスの差別化にAIが不可欠な場合はパターン2。 ただし、顧客に「その機能があるから選ぶ」と言ってもらえる見込みがあることが前提です。あれば便利という程度なら、投資対効果は合いません。開発前に見込み顧客へのヒアリングを済ませてください。
まだ顧客が見えておらず、市場を探っている段階ならパターン3。 少額で始められ、探索のスピードを上げられます。この段階で大きな開発投資をするのは避けたほうが賢明です。
| 自社の状況 | 推奨パターン | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 社長が事務作業に追われている | パターン1 | 時間を食っている業務を1週間記録する |
| 商品にAIの機能が必要 | パターン2 | 見込み顧客3社にヒアリングする |
| 顧客・市場がまだ見えていない | パターン3 | 月1万円の範囲で情報収集を試す |
| 資金に余裕がない | パターン1 | 無料枠のあるツールで検証する |

申請前に押さえておきたい注意点
助成金の申請で最も多い失敗は、「交付決定の前に発注してしまう」ことです。多くの助成制度では、交付決定日より前に契約・発注した経費は対象外になります。AI導入を急ぎたい気持ちはわかりますが、申請を予定しているなら発注のタイミングは必ず要項で確認してください。
次に多いのが、証拠書類の不備です。助成金は原則として後払いで、支払いを終えたあとに実績報告を提出して初めて交付されます。見積書・契約書・請求書・振込記録などが一式そろっていないと、支出が認められないことがあります。AIツールの契約はオンライン完結が多く、紙の書類が残りにくいため、画面の記録や明細書を意識的に保管しておいてください。
また、助成金はあくまで事業計画の実現を支援する制度です。「助成金が取れそうだからAIを入れる」という順序では、採択されても事業は伸びません。まず自社の課題を整理し、その解決手段としてAIが妥当かを判断する。この順序を守ることが、結果的に採択率にも事業成果にもつながります。
制度情報は必ず一次情報で確認する
助成制度は年度ごとに要件・金額・対象経費が見直されます。本記事の内容も執筆時点の情報にもとづくものです。実際に申請する際は、公益財団法人東京都中小企業振興公社の公式サイトで最新の募集要項を確認し、判断に迷う点は公社の相談窓口へ直接問い合わせてください。ネット上のまとめ記事だけを根拠に準備を進めるのは避けたほうが安全です。
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よくある質問
Q. 東京都創業助成事業で、ChatGPTの月額利用料は対象になりますか?
月額のクラウドサービス利用料が対象になるかは、年度ごとの募集要項の規定によります。継続的に発生する利用料は、単発の購入費と扱いが異なる場合があるため、申請前に公社へ確認するのが確実です。対象外だった場合は、通常の経費として自己負担で導入する判断になります。金額が小さいため、助成の可否にかかわらず導入する価値がある支出とも言えます。
Q. AI導入を計画に入れると採択されやすくなりますか?
AIを入れたこと自体で有利になることはありません。審査で見られているのは、事業計画の実現可能性と将来性です。AIが計画の中で明確な役割を持ち、その効果を数字で説明できていれば計画の説得力は上がりますが、目新しさだけを狙って盛り込むと、かえって「必要性が説明できていない」という評価につながります。
Q. AIに詳しい社員がいませんが、導入できますか?
社内に詳しい人がいなくても始められます。実際、UWANにご相談いただく企業の多くは「社内に詳しい人が一人もいない」状態からのスタートです。重要なのは技術の知識より、「どの業務に時間を取られているか」を社長自身が把握していることです。そこさえ整理できていれば、あとは手段を選ぶ話になります。
Q. 3つのパターンのうち、どれから始めるか迷っています。判断基準はありますか?
「AIが売上に直接つながるか」で判断してください。つながるならサービス組込型(パターン2)、つながらないなら社内業務型(パターン1)です。迷う場合はパターン1から始めるのが安全です。投資額が小さく、効果が数字で確認しやすいため、そこで得た手応えをもとに次の判断ができます。創業期に大きな開発投資を先行させるのは、仮説が固まってからにしてください。
Q. 申請が不採択だった場合、AI導入は諦めるべきでしょうか?
諦める必要はありません。パターン1・3であれば月数万円の範囲で始められるため、助成金がなくても着手できます。むしろ、自己資金の範囲で小さく始めて成果を出し、その実績を次回の申請書に書くほうが計画の説得力は増します。実際に運用した数字は、机上の見込みより強い根拠になります。
Q. 他の補助金・助成金と併用できますか?
同一の経費に対して複数の公的支援を重ねて受けることは、原則として認められません。ただし、対象とする経費が異なれば、別の制度を利用できる場合があります。国の制度と都の制度で対象範囲が重ならないよう整理する必要があるため、複数の申請を検討している場合は、それぞれの窓口に事前確認してください。
まとめ:AIを「手段」として計画に組み込もう
東京都創業助成事業にAI専用の枠はありませんが、AI導入費が既存の経費区分に当てはまる形で計上されるケースはあります。判断の分かれ目は「その支出がなければ計画した事業が実現できないか」を説明できるかどうかです。
採択企業のAI活用は、①少人数で事業を回す社内業務型、②サービスそのものに組み込む型、③立ち上げ期の情報収集・営業を支える型の3つに整理できます。どれを選ぶかは、AIが売上に直接つながるかで判断してください。つながらないなら、まずは月3万円程度の社内業務型から始めるのが現実的です。
そして最も大切なのは順序です。「助成金が取れそうだからAIを入れる」ではなく、「解決したい課題があり、その手段としてAIが妥当だから入れる」。この順序が守れていれば、申請書の説得力も、導入後の成果も自然についてきます。
まずは今週、社長ご自身の1週間の時間の使い方を書き出してみてください。どの作業に何時間使っているかが見えれば、AIに任せるべき業務は自ずと絞り込めます。そこが、申請書に書く数字の出発点にもなります。
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