DX推進とは、デジタル技術を使って業務のやり方そのものを変え、会社の稼ぐ力を高める取り組みのことです。専任の担当者がいない中小企業でも、社長一人が「1つの業務」から始めれば十分に進められます。
「DXが大事なのはわかっている。でも、うちには詳しい人間がいない」——従業員10〜50名の会社の社長から、最も多く聞く言葉です。実際、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024」によると、従業員100名以下の企業でDXに取り組んでいる割合は約4割にとどまり、その最大の理由として挙げられるのが「人材不足」です。
ただ、現場を見てきて言えるのは、担当者がいないことは着手できない理由にはならないということです。むしろ、社長が自ら小さく始めた会社ほど、成果が出るのが早い傾向にあります。本記事では、担当者ゼロの会社が今日から動ける3ステップを、費用相場や補助金、よくある失敗までまとめて解説します。
この記事の結論
- DX推進に専任担当者は不要。社長が「時間を食っている1つの業務」から始めれば動き出せる
- 進め方は3ステップ。①業務の棚卸し ②1業務だけ自動化 ③社内に広げる、の順で回す
- 初期費用は10万〜80万円、月額は3万〜15万円が相場。IT導入補助金で最大1/2〜3/4が補助される
DX推進の担当者がいない会社が9割という現実
従業員50名以下の中小企業で、DXの専任担当者を置いている会社はごくわずかです。中小企業庁の調査でも、デジタル化を担う人材が「社内にいない」と答えた中小企業は7割を超えています。つまり、担当者がいないのは自社だけの問題ではなく、中小企業にとっての標準的な状態です。
この前提を踏まえると、取るべき打ち手は「担当者を採用してから始める」ではありません。専任人材を1名採用すれば年間400万〜600万円の人件費がかかります。従業員20名規模の会社にとって、これは簡単な投資ではありません。
担当者を待っていると、いつまでも始まらない
実際によくあるのが、「来年、若手が育ったら任せよう」と先送りするパターンです。しかし1年後も状況は変わらないことがほとんどです。理由は単純で、日々の業務が回っている限り、誰も新しいことに手をつける余裕がないからです。
一方で、社長自身が「まずこの作業だけ変える」と決めた会社は、1〜2ヶ月で目に見える変化が出ます。判断できる人間が動く方が速いのは、DXに限った話ではありません。
「詳しい人がいない」は解決すべき課題ではない
DXというと、プログラムが書ける人や、ITに詳しい人が必要だと考えられがちです。しかし中小企業のDXで実際に必要なのは、技術力ではなく「どの業務が一番ムダか」を判断する力です。これは社長が一番よく知っています。
技術の部分は、既製のクラウドサービス(ネット上で使えるソフト)を契約すれば埋まります。設定が難しければ、外部に月数万円で伴走してもらう選択肢もあります。詳しい人材を「社内に持つ」必要はありません。

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DX推進の進め方3ステップ【担当者なしバージョン】
担当者がいない会社のDX推進は、①業務の棚卸し ②1つだけ自動化 ③社内に広げる、の3ステップで進めます。全社一斉ではなく、1業務ずつ変えていくのが、人手が限られる中小企業に合ったやり方です。それぞれ2週間〜1ヶ月を目安に進めれば、3ヶ月で最初の成果が出ます。
STEP1:時間を食っている業務を洗い出す(所要2週間)


最初にやるのは、ツール選びではありません。「何に時間がかかっているか」を数字で把握することです。ここを飛ばすと、必ず後で「入れたけど使われない」状態になります。
やり方はシンプルです。社長と主要メンバー数名が、2週間だけ「その作業に何分かかったか」をメモします。専用ツールは不要で、紙でも表計算ソフトでも構いません。
| 業務 | 担当 | 1回あたり | 月間回数 | 月間合計 |
|---|---|---|---|---|
| 見積書の作成 | 社長 | 30分 | 40回 | 20時間 |
| 請求書の発行・送付 | 事務 | 15分 | 60回 | 15時間 |
| 問い合わせメール返信 | 社長 | 10分 | 80回 | 13時間 |
| 日報・作業報告の集計 | 事務 | 40分 | 20回 | 13時間 |
| 勤怠の集計 | 事務 | 3時間 | 1回 | 3時間 |
上のような一覧ができたら、「月間合計が長い順」に並べ替えます。この時点で、どこから手をつけるべきかはほぼ決まります。
ポイントは、社長自身の作業時間も必ず入れることです。社長の時間は会社で最も単価が高いのに、見積書作成や問い合わせ対応に月30時間以上使っているケースは珍しくありません。
STEP2:1つの業務だけを自動化する(所要1ヶ月)

STEP1で出た上位1つだけを選び、そこにサービスを導入します。「せっかくだから3つまとめて」は失敗の典型です。同時に複数変えると、現場が混乱し、うまくいかなかった原因も特定できなくなります。
選ぶ基準は次の3つです。第一に、月額3万円以下から試せること。第二に、無料お試し期間があること。第三に、日本語のサポート窓口があること。この3条件を満たすサービスなら、失敗しても損失は数万円で済みます。
| 業務領域 | 導入するサービスの例 | 月額目安 | 削減できる時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 見積・請求 | クラウド見積請求サービス | 3,000〜1万円 | 月10〜20時間 |
| 問い合わせ対応 | 自動応答の仕組み(チャットボット) | 1万〜5万円 | 月10〜30時間 |
| 勤怠・労務 | クラウド勤怠管理 | 300〜500円/人 | 月3〜8時間 |
| 日報・報告 | 業務アプリ作成サービス | 1万〜3万円 | 月8〜15時間 |
| 文書作成全般 | 生成AI(法人プラン) | 3,000円前後/人 | 月5〜20時間 |
導入時は、いきなり全社展開しないでください。まず社長ともう1名の計2名で1ヶ月使い、「これは楽になった」と実感できてから広げます。社長が自分で触っていない仕組みを社員に押しつけても、定着しません。
STEP3:成功した1つを社内に広げる(所要1〜2ヶ月)

2名で効果が確認できたら、部署や全社に広げます。このとき効くのが、STEP1で測った数字です。「この作業、前は月20時間かかっていたのが5時間になった」と具体的に示せると、現場の納得感がまったく違います。
広げる際は、社内で最も乗り気なメンバー1名を「まとめ役」に指名します。専任である必要はなく、通常業務の傍らで構いません。役割は、使い方の質問を受けることと、うまくいかない点を社長に報告することの2つだけです。ここで初めて「担当者らしき人」が生まれますが、最初から置く必要はありません。
1つ定着したら、STEP1の一覧に戻り、次に時間を食っている業務へ進みます。この3ステップを年3〜4回まわすと、1年後には社長の時間が月40〜60時間戻ってくる計算になります。

中小企業のDX推進にかかる費用相場
中小企業のDX推進にかかる費用は、初期費用10万〜80万円、月額3万〜15万円が相場です。従業員20名規模で1業務ずつ進める場合、年間で50万〜150万円程度に収まるケースが多く、専任人材1名の採用(年400万〜600万円)と比べると負担は大きく下がります。
規模別・段階別の費用目安
| 規模 | 取り組み内容 | 初期費用 | 月額費用 | 年間合計の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 従業員10名以下 | 既製サービス1〜2種の導入 | 0〜15万円 | 1万〜4万円 | 12万〜60万円 |
| 従業員10〜30名 | 既製サービス3〜5種+簡単な連携 | 15万〜50万円 | 4万〜10万円 | 60万〜170万円 |
| 従業員30〜50名 | 基幹業務の刷新+外部伴走 | 50万〜200万円 | 10万〜25万円 | 170万〜500万円 |
注意したいのは、初期費用が「ゼロ円」と書かれているサービスでも、実際には設定作業に社内工数がかかる点です。社長や事務担当が20時間かければ、それは実質的なコストです。導入支援を外部に依頼する場合、1業務あたり10万〜30万円が目安になります。
IT導入補助金を使えば1/2〜3/4が戻る

中小企業がソフトウェアやクラウドサービスを導入する場合、IT導入補助金の対象になることがあります。通常枠では補助率1/2以内、補助額は5万〜450万円が上限です。インボイス対応枠など、条件によっては補助率が3/4まで上がる区分もあります。
ただし、補助金には注意点が3つあります。第一に、あらかじめ登録された「IT導入支援事業者」を通して申請する必要があります。第二に、公募には締切があり、年に数回の区切りで受付されます。第三に、原則として後払いのため、いったん自社で全額を支払う必要があります。
最新の補助率・上限額・公募スケジュールは年度ごとに変わるため、必ずIT導入補助金の公式サイト(https://it-shien.smrj.go.jp/)で確認してください。
費用を抑える3つの考え方
1つ目は、無料プランや30日間の試用期間を必ず使うことです。契約前に現場が触れば、「思っていたのと違う」を防げます。
2つ目は、オーダーメイドの開発を最初に選ばないことです。自社専用のシステムを一から作ると数百万円かかりますが、既製サービスの組み合わせで8割の課題は解決します。専用開発が必要かどうかは、既製品を1年使ってから判断すれば十分です。
3つ目は、人数課金のサービスは使う人だけに絞ることです。全社員分を契約する必要はなく、まず3〜5名分から始めれば月1万円台に収まります。
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DX推進で失敗する会社の5パターン
担当者がいない会社のDXが止まる原因は、ほぼ5つに集約されます。逆に言えば、この5つを避けるだけで成功確率は大きく上がります。実際に現場で見てきた失敗パターンを、対策とあわせて紹介します。
| 失敗パターン | よくある状況 | 対策 |
|---|---|---|
| ①ツールから入る | 話題のサービスを契約したが誰も使わない | 業務の棚卸しを先にする |
| ②全社一斉に変える | 現場が混乱し、元のやり方に戻る | 1業務・2名から始める |
| ③社長が触らない | 「若手に任せた」で放置され自然消滅 | 社長が最初の1ヶ月は自分で使う |
| ④効果を測らない | 続けるべきか判断できず惰性で契約継続 | 導入前後の作業時間を数字で記録 |
| ⑤完璧を求める | 検討ばかりで1年経っても何も始まらない | 6割の完成度で始めて後から直す |
最も多いのは「ツールから入る」失敗
5つの中で圧倒的に多いのが①です。展示会や知人の紹介で良さそうなサービスを見つけ、そのまま契約する。しかし自社のどの業務を楽にするのかが決まっていないため、誰も使わないまま月額だけ払い続けることになります。
STEP1の業務棚卸しは地味な作業ですが、ここを2週間やるかどうかで、その後の数十万円の使い道が変わります。
「社長が触らない」と現場は動かない
③も根深い失敗です。社長が「デジタルは苦手だから」と距離を置くと、現場は「本気ではないのだろう」と判断します。逆に、社長が自分で使って「これは楽だ」と言えば、それだけで社内の空気が変わります。
最初の1ヶ月だけで構いません。社長自身が一番の利用者になることが、担当者不在の会社では何よりの推進力になります。

自社に合った進め方の選び方
担当者がいない会社の進め方は、大きく「社内だけで進める」「外部に伴走してもらう」「専任を採用する」の3通りです。従業員30名以下であれば、まず社内だけで1業務やってみて、詰まったら伴走を頼むという順番が最も費用対効果に優れます。
| 進め方 | 向いている会社 | 年間コスト目安 | 立ち上がりの速さ |
|---|---|---|---|
| 社内だけで進める | 従業員30名以下・社長に月5時間の余力がある | 12万〜60万円 | 遅め(3〜6ヶ月) |
| 外部に伴走を依頼 | 従業員10〜50名・社長に時間がない | 60万〜250万円 | 速い(1〜3ヶ月) |
| 専任担当を採用 | 従業員50名超・複数部署を同時に変える | 400万〜600万円 | 遅め(採用に3〜6ヶ月) |
社内だけで進めるべき場合
従業員30名以下で、社長または事務担当が月5時間ほど新しいことに割ける状態なら、まず社内だけで始めてください。既製のクラウドサービスは設定が簡単になっており、STEP2の1業務目であれば外部の手を借りずに完了できることがほとんどです。
外部に伴走を依頼すべき場合

社長が現場作業に追われて時間が取れない場合や、過去に一度導入して失敗している場合は、外部の伴走を検討する価値があります。月3万〜15万円で、業務の棚卸しから設定・社内定着までを一緒に進める支援サービスがあります。
選ぶ際は、「ツールを売る会社」ではなく「使い方まで一緒に作る会社」かどうかを見てください。導入して終わりの支援では、担当者がいない会社は結局定着しません。
専任担当を採用すべき場合
従業員50名を超え、複数部署の業務を同時に変える段階になったら、専任の採用を検討します。ただしこれは、1〜2業務のデジタル化に成功し、社内に「変えれば楽になる」という実感が広がってからで十分です。何も成功体験がない状態で採用しても、その人が孤立して終わります。
DX推進の成果をどう測るか
DXの成果は、「削減できた時間」と「その時間を何に使ったか」の2つで測ります。売上への影響は半年〜1年遅れて出るため、短期では時間の指標を見るのが実務的です。
| 指標 | 測り方 | 3ヶ月後の目安 |
|---|---|---|
| 作業時間の削減 | 導入前後で同じ業務の所要時間を記録 | 対象業務で50〜70%減 |
| 社長の可処分時間 | 社長の週間スケジュールで営業・企画に使った時間 | 月10時間以上の増加 |
| 定着率 | 対象者のうち週1回以上使っている人の割合 | 80%以上 |
| ミス・手戻り件数 | 転記ミス・記入漏れの月間件数 | 半減 |
重要なのは、削減した時間の使い道を先に決めておくことです。「月20時間空いた」で終わると、その時間は別の雑務で埋まります。「空いた時間で社長が新規訪問を月8件増やす」のように、行き先を決めておくと売上につながります。
UWANが伴走した製造業の会社では、見積書作成と問い合わせ対応を自動化した結果、社長の事務作業が月28時間減りました。その時間を既存顧客への訪問に振り向けたことで、半年後には追加受注が増えています。AIやシステムは道具であり、成果を生むのは、空いた時間を何に使うかという人の判断です。
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よくある質問
DX推進の担当者は本当に採用しなくてもいいのですか?
従業員50名以下であれば、最初から採用する必要はありません。社長が1業務を選び、既製のクラウドサービスで自動化するところから始めれば十分に進みます。専任採用は年400万〜600万円のコストがかかるため、1〜2業務のデジタル化に成功し、変える対象が複数部署に広がってから検討するのが現実的です。
ITに詳しい社員が一人もいませんが、始められますか?
始められます。中小企業のDXで必要なのは技術力ではなく、「どの業務が一番ムダか」を判断する力で、これは社長が最もよく知っています。設定作業が難しい部分は、日本語サポートのあるサービスを選ぶか、月3万〜15万円の伴走支援を使えば埋まります。
どの業務から手をつけるべきか判断できません。基準はありますか?
2週間の業務棚卸しを行い、「月間の合計時間」が最も長い業務を選んでください。特に、社長自身が見積書作成や問い合わせ対応に月20時間以上使っている場合は、そこが最優先です。社長の時間は社内で最も単価が高く、空けた効果が売上に直結しやすいためです。
導入を検討していますが、失敗して数十万円をムダにするのが不安です
「月額3万円以下」「無料お試し期間あり」「日本語サポートあり」の3条件を満たすサービスから始めれば、失敗しても損失は数万円に収まります。最初から自社専用のシステムを開発すると数百万円かかるため、既製サービスを1年使ってから専用開発の要否を判断してください。
補助金は使えますか?いくらくらい戻りますか?
IT導入補助金の対象になる場合、通常枠で補助率1/2以内、補助額5万〜450万円が上限です。条件によっては補助率3/4の区分もあります。ただし、登録された支援事業者を通した申請が必要で、公募には締切があり、原則後払いです。最新の条件はIT導入補助金の公式サイトで確認してください。
成果が出るまでどのくらいかかりますか?
1業務あたり、棚卸し2週間・導入1ヶ月・社内展開1〜2ヶ月で、約3ヶ月です。対象業務の作業時間が50〜70%減れば成功と判断してください。売上への影響は、空いた時間を営業や企画に振り向けてから半年〜1年遅れて出ます。
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まとめ:まずは業務の棚卸しから始めよう
DX推進に専任担当者は必要ありません。担当者がいない中小企業でも、①時間を食っている業務を洗い出す ②1つだけ自動化する ③社内に広げる、の3ステップで着実に進められます。1業務あたり約3ヶ月、費用は初期10万〜80万円・月額3万〜15万円が相場で、IT導入補助金を使えば1/2〜3/4が補助されます。
失敗する会社に共通するのは、ツールから入ること、全社一斉に変えようとすること、そして社長が自分で触らないことです。逆に、社長が「この作業だけは変える」と決めて自ら使い始めた会社は、1〜2ヶ月で現場の空気が変わります。
まずは来週から2週間、社長ご自身が「その作業に何分かかったか」をメモするところから始めてみてください。紙一枚で構いません。その一覧が、御社のDXの出発点になります。

